なぜですか

書きたいと思ったことを書きます

「玉掛作業は 有資格者で」

工事現場の前を通りがかったときになんとなく中を覗いてみたら、こんな言葉が書かれていた。

玉掛作業は 有資格者で」

この言葉にちょっとした違和感を覚えた。

 

意味はわかる

玉掛作業(たまかけさぎょう)」という言葉については知らなかったが、その下に、クレーンに資材を引っ掛けている作業員のイラストがあったので、それのことだとすぐに理解できた。Wikipedia によると、クレーンへの掛け外し作業のことを「玉掛け」と呼ぶらしい。

玉掛け - Wikipedia

イラストと「玉掛作業は 有資格者で」という言葉から、「玉掛作業は、有資格者だけが行うこと」という意味なんだなと理解することはできる。

 

違和感の理由は何なのか

意味はわかるのに違和感は拭えない。それは「玉掛作業は 有資格者で」という言葉のもともとの姿が見えないからではないだろうか。

工事現場や作業所に書かれている注意文言は、ひと目で理解しやすいように概して短く書かれているものだ。「玉掛作業は 有資格者で」の場合もそうで、全角スペースの部分が改行され、大きなフォントでの記載になっていた。余計な文言が除外されているおかげで、一読してわかりやすくなっている。

では「玉掛作業は 有資格者で」から除外された余計な文言はいったい何なのだろう。

 

玉掛作業は 有資格者で(行うこと)」だとしたら

除外されたのが「行うこと」だとしたらどうだろうか。「玉掛作業は有資格者で行うこと」。いささか「有資格者」を道具としてみなしているように聞こえる。もし仮にこれが本来の文言だとしたら、これは現場監督や作業責任者に向けてのみ書かれるのが相応しい。

しかしこの文言は、実際には「安全第一」などと同じ場所に、同じ大きさで記載されていた。その状況だけを見ると、どうも一部の人間だけでなく全体に向けて書かれたものだと思わざるをえない。

 

玉掛作業は 有資格者(だけ)で(行うこと)」だとしたら

では、「行うこと」以外に「だけ」が省略されているとしたらどうだろうか。これならば作業者全体が念頭に置くべき事項のように思える。資格のない者にとっては、自分が玉掛け作業を行ってはいけないことが理解できるからだ。

しかしこれでは省略されすぎていて、本来の文を連想しづらいように思える。また、もし仮にもとの文が「玉掛作業は 有資格者(の監督のもと)で(行うこと)」だとしたら、無資格の作業者が気をつけるべきは、自分が作業を行ってしまうことではなく、その際に有資格者がまわりに存在していないことになってしまい、文意が変わってしまう。このような曖昧な省略は必ずしも適切でないだろう。

とはいえ現実にこの曖昧さは問題になっていない。それはおそらく工事現場において玉掛作業時の注意点が周知の事実となっていて、今さら言われるまでもないことだからなのだろうと思う。

 

より適切な文言があるのか

ここからは、もとの文が「玉掛作業は、有資格者だけが行うこと」という意味の文言であると仮定して、5文字2行の合計10文字の範囲でもっとうまく表現できないかを考えてみたい。要件は以下の通りだ。

  1. 短いこと(5文字で2行、計10文字以内)
  2. 一読して文意が伝わること

 

文言案たち

「有資格者が 玉掛作業を」

一番に思いつくシンプルなタイプはこれだろう。本来の文言である「有資格者が玉掛作業を(行うこと)」も連想しやすい。

ただし「述部が文末に来る」という日本語の性質から、「有資格者が玉掛作業を(行ってはいけない)」でないとも言い切れないし、「有資格者が」のほうが先に来ていることからそちらのほうが目立ってしまい、すこし「玉掛作業」が頭に入って来づらい気がする。

他にも考えてみよう。

 

玉掛作業は 資格者のみ」

「有資格者」から「有」をさらに削り、その続きを「のみ」とすることで「有資格者だけが作業を行える」という意味合いを強調してみた。これなら工事初心者(そんな人が現場にいるのかどうかは不明だが)にも、周知の事実となっている事柄が理解しやすいのではないだろうか。

ただしこれもひとつ目の文案と同じように末尾が「〜が行ってはいけない」などではないとは言い切れない(そもそもそんなひねくれた人間に注意文言を考えさせてはいけないけれども)。

もうひとつだけ考えてみよう。

 

「無資格玉掛 事故のもと」

「無資格玉掛」という言葉を新たに用意したもの。また同時に、「なぜ玉掛作業は有資格者だけに許されているのか」が理解できる文言を追加した。字余りながらも七五調になっていて語呂も良い。

この文言の弱点としては、「無資格玉掛」が造語であることだ。読んで字のごとくであり、本来の言葉に意味を付加したようなトリッキーな造語ではないので、何のことか理解できないようなものではないだろうが、一読して意味が理解できる可能性は下がるだろう。

 

違和感のない省略は意外と難しい

こうして考えてみると、まったく違和感を覚えないような文案は思いつくことができず、言葉選びが意外に難しい作業だった。あまりすっきりしない結末で申し訳ないが、また何か違和感のある言葉を見つけたらこうして同じように考えてみようと思う。

 

またここまで読んでくださった方には、「例えばこの言い方はどうか」など思うところがあればぜひ、コメントや現実にて教えていただけますと幸いです。