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イタリア語版ミュータント・アンド・マスターマインドの舞台裏 〜エマヌエーレ・グラナテッロ、ミルコ・ペリチオーニ・インタビュー〜

執筆者:ルイージ "テンカー" カラファ (Luigi "Tencar" Carafa)
2018年2月1日 本家イタリア語版公開
2018年2月5日 非公式日本語版公開


まったくの偶然の出来事から記事が生まれることがあります。D&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)の優れたマスターであるエンリコ・カンティーレ(Enrico Cantile)とのチャットの中で、スーパーヒーローたちが活躍する宇宙を舞台にしたRPGミュータント・アンド・マスターマインド(Mutants & Masterminds)に出会ったこともまたそういった偶然の出来事です。

私はそれからイタリア語版RPGを制作担当したチームを探しはじめ、カイゾク・プレス社(Kaizoku Press)のエマヌエーレ・グラナテッロ(Emanuele Granatello)ミルコ・ペリチオーニ(Mirko Pellicioni)へのインタビューに成功しました。


ルイージ(筆者): ミュータント・アンド・マスターマインドをイタリアに持ち込むというアイデアは、いつどこで思い浮かんだのですか?

エマヌエーレ: 僕とミルコ・ペリチオーニとは何年も前からの知り合いで、僕たち(と、レリオ・ムーラス(Lelio Mulas)のことも忘れちゃいけないね)は、これまでに様々なプロジェクトに携わってきました(Fading Suns、Warcraft、ほかに実現はしませんでしたが Casal Pusterlengo 市郵便局の強盗)。僕は何年も前から、ウォーハンマーRPG第2版のテスト協力を通じてその編集者*1のことを知っていました。
僕たちは何か新しいものをもたらし、イタリアのRPG業界で勝鬨をあげたいと思っていました。それに僕たちはDCコミックスの『Legione』*2以来(ああ、Legione!懐かしい!)、本当に "インパクトのある" ものは見たことがなかった。そしてミュータント・アンド・マスターマインドは、これまた偶然にも、DCコミックスのゲームです(アメリカでは『DC アドベンチャーズ』という名前で出版されています)。

贔屓していると思われるかもしれませんが、それでも本当に、ミュータント・アンド・マスターマインドスーパーヒーローのPRGだと思います。システムはすぐ覚えてすぐ遊べるようになっていて、信じられないぐらい柔軟です。おおむねD&Dと共通していますが、異なる点が2つあります。例えばより早いダメージの回復バットマンシリーズの世界観でプレイしたい場合におあつらえ向き)、ポイントシステム(ゲームの柔軟性を、最近の他のゲームのレベルまで高めています)、複合システムはヒーローポイントのメカニズムにリンクしています(こういったジャンルの典型的なヒーローの行動とダークヒーローのジレンマとをすっきり解決し、いわゆる "ショッピングカート" のようにしてしまうことはありません)。
ヒーローパワーのシステム(本の中でも最も重要なルールです)についても、いわゆる "呪文のリスト" のようになることを避けるため、非常に簡潔にまとめられています。それにくわえて、キャラクターやアーキタイプのラピッドジェネレータ(高速生成システム)が用意されているので、プレイヤーは基本ルールブック(オールカラーで豊富なイラストつき)の中の、何十種類ものキャラクターやパワーをすぐに使用することができるようになっています。それから、主な設定を紹介するための二つのストーリー!ほかになにか必要ですか?もし足りないものが見つかったとしたら、僕は追加のエキスパンションを使います。ウェブサイトに用意されている基本ルールを直接ダウンロードしてみてください!

また、ミュータント・アンド・マスターマインドのマスタースクリーンや、PGやヴィランをより迅速に作成するために用意された、能力に関する分厚い(700ページ以上!)ルールブック、『パワープロフィール』ゲームマスター向け、冒険やアドバイス、アイデア、いくつものサプライズが掲載されています。たとえば、魔法の章をご覧ください)も作りました。

ルイージ: 全体の翻訳をするのはどれぐらい難しいことですか?あなたがたにこの作品を委ねたのは誰ですか?

ミルコ: エマヌエーレとレリオの担当した翻訳作業には、かなり時間がかかりました。翻訳作業は、自分の言葉で文章をまとめるというだけでなく、通して読み、再読し、印刷してからさらに読み直し、第三者に読んでもらうことまでが含まれます(僕たちが変えなきゃと思っている作業もあります...時間がかかりすぎるからね!)。これが翻訳者の仕事です(模倣もありますが、これこそが本当の翻訳なのです)。グリーン・ローニンのスティーブ・ケンソン(Steve Kenson)とジョン・リーセウッサー(Jon Leitheusser)にも、ルールへの疑問や誤植の解消に関して、多大な助力をいただきました。グラフィックやレイアウトも尋常ではありませんでした。ミルコ・ペリチオーニ氏は最終段階での変更という、印刷上の大問題に直面しなければならなかった。それは銀河に打ち上げられた宇宙の侮辱であり、宇宙人の科学者たちは、将来ビッグバンの背景放射と一緒にこれについて研究することでしょう。

ルイージ: ルールブックのフォーマットはどのようにして決めましたか?

ミルコ: 単なるA4サイズではなく、本家同様にアメリカの用紙形式にすることを話し合って決めました。カバーについては、顧客に安く提供することを考え、最終的なコスト増につながるハードカバーでの装丁ではなくペーパーバックを採用しました。

エマヌエーレ: 当初僕は編み物のカバーを考えていましたが、ミルコは僕に、あまり独創的でないものを使うよう納得させました。僕たちは古風なソフトカバー装丁を、レギュラー版、そしてとても稀少なルッカ*3版(現在では手に入らず、タイプミスが目立ちます。Gronchi Rosa*4のような感じです)のふたつで採用しました(純粋なスーパーヒーロースタイルで)。ウールカバー付きの版なら冬のゲームプレイにも役立つし、きっと綺麗だったのに、残念です。(暖かさで世界は救われます。でも…Mr.Freeze にとってはダメでしょうけどね!)



ルイージ: あなたがたもRPGのプレイヤーですか?

ミルコ: 僕は1987年以来RPGを精力的に遊んできました。そもそもがRPGの大ファンで、それなしに今まで生きるのがまず無理でした。

エマヌエーレ: 間違いないですね。僕は1993年に(僕は同僚ほどのオタクではありません)、D&Dの赤箱*5からでした(正直に言うと、僕より先にRPGで遊んでた人たちは、ヒーロークエストをやっていました)。僕の一番のお気に入りは、いまだにウォーハンマーRPG(初版と第二版)です。でも、他にもすごく雑食に遊んできました。
僕はスター・ウォーズRPGも好きだし、クトゥルフの呼び声、Rifts(ああ、Rifts…サイバー女とロータリー、喜びと悲しみ)、ミュータント・クロニクルズ、Fading Suns、パラノイア…などなど。もちろん、様々な派生版やたくさんのD20で、AD&D(アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ)も遊んできました。ミュータント・アンド・マスターマインド(とTrue20、その後継)は、システムの到達点だと僕は思います。僕にはスティーブ・ケンソン(Steve Kenson)*6がどうやってそれに成功したのかはわかりませんが、70年代にもたらされた残滓*7は、柔軟かつシネマチックな珠玉作を産み出しました(ヒットポイントとレベルなしで!)。

ルイージ: RPGに対する情熱の源はなんですか?

ミルコ: すべては、1987年に僕が最初にローンウルフのゲームブック、それからThe Dark Eye*8と出会い、RPGがいったいどういうものなのかまったく知らないままに購入したときから始まりました。幸いなことに、僕の住んでいたボローニャには僕のような愛好家の集まるグループ(“Circolo degli Scacchi”や“Ludoteca giocano i Grandi di Corticella”)がたくさんありました。もちろん、僕にとっての二番目のRPGはD&Dで、それからルーンクエストクトゥルフの呼び声、そのほかにもたくさんあります。僕は古くからの愛好家のひとりですが、過去15年間の新しい革新的なゲームのことも大好きです。

エマヌエーレ: 子供の頃から、女の子に人気がなく、何事にもうんざりしていて、その名に相応しいコンピューターやコンソールも持ち合わせていない、基本的にオタクになろうとしていた僕(彼らにまだのど仏が無かったころ、永遠の天使たち!)には2つの選択肢しかありませんでした。シリアルキラーになるか、はたまたRPGか。僕はその両方の活動に専念していて、はっきりとどちらかを選んだわけではありませんでした。僕はカゼルタにある僕の大きな家で、長いRPGセッションを開催しましたが、それが終わる頃には、プレイヤーもキャラクターも消えてしまいました(必ずしもこの順序ではありません)。事態が悪化しはじめた時、僕は今住んでいる日本へと移りました。RPGを遊ぶことは少なくなりましたが、翻訳することは増えました。

ルイージ: 紙のマニュアルの出版を補助する目的で、タブレットやその他のサポートが可能なPDF形式やその他形式で配布するというアイデアについては考えましたか?

エマヌエーレ: はい。僕たちカイゾク・プレス社としてはそれについて考慮していて、2018年にはニュースをお知らせできます。僕は、僕たちが転換点にいると確信し続けています。紙はデジタルに道を譲りました。その道はまもなくウールに譲られることでしょう。ウールこそが未来です。その間に、僕たちはすでにデジタル配信を開始しており、僕たちのオンラインショップ(http://mutantsandmasterminds.it/ および http://kaizokupress.it/)では、紙でも購入することができます。Drivethrurpg*9 でも購入できます。さらに、Terra dei Giochi(僕たちと提携している数少ないショップのうちのひとつ)では、Webサイト terradeigiochi.it 上で、ミュータント・アンド・マスターマインドのために作られた数多くの素材(公式・非公式ともに)を取り扱っています。また、昨年12月にはイタリアで作られた最初のアドベンチャーが出版されました(無料)。なんとあのLegion (ああ、Legione!懐かしい!)の著者、ダニーロモレッティ(Danilo Moretti)によって書かれました。

ルイージ: これからの計画はありますか?すでに作業場に置かれている仕事はありますか?

ミルコ: たくさんのプロジェクト、アイデアだけでなく、他のチームとのコラボレーションや共同制作もあります。カイゾク・プレス社として、現時点では、ジョン・コヴァリック(John Kovalic)によって描かれた『子供たちを食べるコボルドたち』という、ビールとポテトチップから生まれた最初のRPGが作業場に置かれています!その後には、もっと古典的なほうへ移って、M&Mとメガ・アドベンチャーのための一組のエキスパンションと、すでにアメリカで販売されているD&D第5版のためのダンジョン・エポック『Rappan Athuk』の翻訳を行います。端的に言えば、僕たちの名前を信じてください(『Kaizoku』は日本語で『海賊』を意味します)。僕たちは新しい手法の出版で、みなさんを驚かせます(とにかく買って買って、買ってください!できれば、僕たちのサイトで)。

ルイージ: あなたがたのこれからの意欲に感謝を!

出典: https://nerdando.com/2018/02/01/ce-dietro-ledizione-italiana-mutants-masterminds/

*1:クリス・プラマス(Chris Pramas)、グリーン・ローニン(Green Ronin)の代表。RPG以外に食べ物、ウォーゲーム、パンク音楽、ドナルド・トランプとその支持者をからかうことの4つに情熱を燃やしている

*2:訳注: 1990年に発売されたアメコミ

*3:ルッカゲームズ。イタリア最大のアニメ・ゲーム・漫画イベント。年一回ルッカ市で開催される。

*4:イタリアの切手。描かれていたペルーとエクアドル間の国境に誤りがあり、訂正版が印刷された。

*5:ダンジョンズ&ドラゴンズ・スターターキットのこと

*6:ミュータント・アンド・マスターマインド、True20 などのゲームデザイナー。

*7:訳注: 1974年に誕生したダンジョンズ&ドラゴンズのこと。

*8:訳注: 1984年に出版されたRPG

*9:訳注: RPG関連のWeb通販サイト。http://www.drivethrurpg.com/