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「あれみたいなやつ作ってよ」について

流行っていたりデファクトとなっていたりする他社のプロダクトを見たえらい人が、「あれみたいなやつ作ってよ」と言ってくるのはよくあることです。ここではそれがどうしてなのか、どういうことで困るのかについて書いてみます。

「あれみたいなやつ作ってよ」

は?

あなたの気持ちはよくわかります。そこにすでに誰でも使える形で存在しているのだから、みんなそっちを使うだろうし、新しく作る意味が見出だせないのでしょう。往々にして既存のもののほうが作り込みが進んでいて完成度が高く、今からそこに追従するのでは遅すぎることも多いです。気軽に「すぐできるでしょ」という感じで言ってくるのも、作り手の苦労や努力を踏みにじられているようで気に入りません。

まず事業として問題があり、あなたに会社への忠誠心が残っているのなら忠告してみるのも良いでしょうが、あまりおすすめしません。残り少ない忠誠心までもが消えてしまう可能性が高いからです。もし事業としての可能性が感じられる非常にまれなケースに直面したなら、このような不運を巡り合わせた神を罵りましょう。

なぜ「あれみたいなやつ作ってよ」と言っているのか

この発言の出てくる理由は単純で、しかもあなたもわかっていることです。「あれ」がすでにあるからです。ゼロから作るものをイメージして、長時間話し合いを経てまっとうに作る場合よりも、すでにあるものを見ながらそのコピーを作るほうが、イメージや話し合いのぶんのリソースが節約できると考えているのです。実際、そういうメリットはあります。まったく何もない状態から作っていくよりも、初期投資は少なく済むことでしょう。

またすでにあるものが世に受け入れられていることも、この発言のきっかけになっています。もうみんな使ってる、ということはみんな同じようなものでも受け入れてくれるに違いないと考えているのです。先行事例があるからもう一度(二度、三度…)同じ手が通用するよね、という楽観的な思考です。実際にはそう簡単にはいかないでしょうが。

「あれみたいなやつ作ってよ」の何が困るのか

ここからは、いざあれみたいなやつを作ったときの困りごとを書いていきます。

使ってもらえない

え?

いやいやいや、冷静に考えてみてください(あなたはわかっているかもしれませんが)。すでに使っているものをわざわざ乗り換えてまで新しいものを使う人と、乗り換えない人、どちらが多いでしょうか。その種類のサービスやアプリなど(たとえばSNSTwitterクライアントなど)そのものが大好きで、新しいものが出てきたらすぐに試したいといういわゆるアーリーアダプターは、全体のおよそ13.5%だと言われています。そのなかのいったいどれぐらいの人々が残ってくれるでしょうか。「いや、うちにはずっと残ってくれるはずだ」ですって? ただでさえ目移りしやすい人たちなのに?

問題を解決しなければならない

人に使ってもらう(こっちに移ってきてもらう)ためには、既存のプロダクトにはない魅力を打ち出す必要があります。そしてプロダクトの魅力とは、それを使うことによって得られる問題解決のことです。問題には種類があります。サービスそのものの問題(イケてないUI、高すぎる料金、遅すぎるデータ読み込み…)、顧客の抱える問題(時間がない、気力がない、不慣れで使えない…)の2種類です。これらを解決できるような魅力を打ち出さなければなりません。どうやって? そこぐらい自分で考えましょう(既存プロダクトのユーザーにヒアリングしても良いですね)。

見過ごされていた問題が戻ってくる

問題を解決できるような魅力を打ち出すと、それで移ってきた顧客は考えます。「きっとこっちのプロダクトなら、前のプロダクトにあったべつの問題のあれやこれやも解決してくれるに違いない」と。こうして新たな問題を解決しなければならなくなります。しなくても良いっちゃ良いのですが、期待を裏切られた顧客はどう思うでしょうか。

解決できない問題に直面する

いざ、前のプロダクトにあった問題を解決しようとしたとき、それができない(または非常に手間である)ことがわかります。なぜでしょうか。考えてみれば当たり前で、前のプロダクトを作った人たちも同じ問題に直面したからです。そして解決できずに放置していたからこそ、その問題が今も残されているのです。「あれみたいなやつ」を愚直にもう一度作ってしまった結果、あなたは「あれみたいなやつ」に残されていた問題も引き継いでしまったのでした。

ではどうすればいいのか

上記のような状態にならないためには、解決策はひとつしかありません。初期投資をしっかり行い、既存プロダクトの問題点をしっかりと洗い直すことです。また、プロダクトの取り扱うドメイン(DDDのDのほう)についての知識を深めましょう。そうすることで見えなかった問題が見えるようになり、避けるための工夫もできるでしょう。

ほかにできることは、初期投資を行わずに、いざ解決できない問題に直面したらそこでしっかりとリソースを割いて対応することだけです。具体的には、そのプロダクトが使われるシーンやユーザーの想定をし、ドメイン知識を深め、理想的な設計・実装に作り変えてやることです。そうでなければ、既存プロダクトの問題解決はおろか、新たな問題を作ってしまうことに繋がりかねません。そうしているあいだにも、既存の「あれみたいなやつ」にも魅力は追加されていくことでしょう。それに追いつくためにも、ここでしっかりと考えて知識を得ておく必要があることでしょう。

よく見てみると、初期投資で節約できたと思っていた部分がそっくりそのままここで支払われることになっていますね。結局のところ、「あれみたいなやつ」を作ったところで節約できるのは初期投資だけだということなのかもしれません。以上。